とある廃人の灰色の憂鬱
たぶん現パロでゲームランカー兼配信者なリ傭です。
荘園は関係なく、転生パロでもなく、特にラブラブしてる訳でもなく、ピリピリしてて喧嘩し通しです。
暴言、煽り、配信パロなど諸々注意。
勢いだけで書きました。
2020/1/3
海岸を駆け抜ける。
草臥れた廃材や壊れかけの小屋が乱立した廃村を駆け抜ける。
戦いが終盤のこのエリアにはもはや自分を血眼になり探すハンターと、ゲートから逃げ遅れた自分の二人しか残っていない。
既に解放されているゲートへ向かうのは危険と判断し気配を殺しながら海岸最奥の地下脱出口へ駆けていく。
見つかるか、見つからないか。
ハンターは今何処にいる。
きっと解放されているゲートか、それとも逆側のゲートを開けていると思い込みそちらへ向かうか。
それとも…
と、突然心臓が音を立て近くの狩人の存在を知らせた。
どちらから来ているのかまだ目視できない。しかし、心臓は痛いほどに早鐘を鳴らす。
どこからともなく、風の音。
開いた脱出口が解放され近くに存在する事を示していた。
あと、少し。あと少しでこの戦場から脱出する事が出来る。
その瞬間。
ギラリ、と赤い影が物陰から突如現れ、殺気立った攻撃を振りかざす。鉤爪が身体に襲いかかった。
もう脱出口はすぐそこ。
これを躱せば、幾ら終盤の攻撃力の上がった相手とはいえ自分の能力ではすぐに死ぬことはない。逆に言えば躱せなかったら、死。
無理矢理慣性を止めて身体を反転させ、力の限り振りかぶった武器を避ける。避ける読みでそちらに武器が向いていたら、これまた死。
完治する前にふと振り返ると、つい数瞬前まで自分のいた場所に霧の刃と呼ばれる攻撃の残滓が、残っていた。
身体は、無傷だった。
息をのみ、勝利を確信する。
よし、これで三人脱出で勝利となる。足を脱出口に向けて身体が反転する。
大きな舌打ちがハンターから聞こえたが、その大柄な身体の脇の横をすり抜けた。歓喜と共にようやっと脱出口に手をかけ、身を沈めた瞬間
『ハンターが投降しました』
「ぁぁぁあああんの野郎ォオオオ!!!」
ナワーブはがしゃん、と手に握りしめていたスマートフォンをベッドへ投げ、喚いた。
画面には、勝利の文字。しかし、演繹点数はハッチ脱出されなかった分低く表示されていた。
「ま、まあ、結果的に三人脱出は出来たからいいじゃねえか」
「うるせえ!ハッチポイント!!俺のハッチポイント返ぜよぉぉお!!」
イヤホンから聞こえるのは相方ゲーマーのウィリアム。今日もこの男と共に通話を繋ぎ、ナワーブはこの対人オンラインゲームに挑んでいる。
顔を上げると目の前に映るPCの配信画面には笑う表現として使われる大量のwの文字が流れていた。笑っている表現として使われるその文字にカチンときて叱っていると、その中に紛れる「GGでした」の文字の上にjAck@YouBubeの名前表記。
それに気づいた視聴者が更に盛り上がって、「お疲れ様ですジャック様♡」「性格歪曲全一」「jackガチ恋勢大歓喜」と続々とナワーブの配信というのに目にも止まらぬ速さでその反応コメントが流れていく。
「消えろ!!おいモデレータ!あの野郎のコメント全部消せぇええ!」
「落ち着けナワーブ!次のゲームが始まる!」
ガチャガチャとPCを弄り、原因の主を配信から追い出そうとするが画面には既に次のゲームのマッチング画面。
「コロス……次はコロス……あんの、あのゴミ野郎がよぉ!」
「ハンターは殺せねえって!ほらBANしろ!」
「リッパー!!リッパーリッパーリッパーBAN!!!!」
ナワーブは頭に血が上ったまま、迷わず長身のハンターキャラにチェックを入れて禁止キャラクターを指定し狂ったように叫んだ。
しかしながら、他の仲間といえばそれに反してパワーの強い遠隔攻撃キャラクターを指定して、ついぞリッパーと呼ばれるキャラクターがBANされる事はなかった。
それにまた大きくため息をついてナワーブは後ろに倒れ込む。
「現環境でリッパーBANするやつお前くらいだって」
「もう俺らジャックとしか当たらねえのによぉ…」
「ジャックの血の女王マジでエグいぞ?大人しく女王BANしとけって」
「気が狂う……」
スマートフォンで展開するオンラインゲーム「ティティ5」は昨年から人気を博しているアクション対人ゲームだ。
ナワーブも社会人だというのに安易にこのゲームに手を出してしまい、見事生活の殆どをこれに持っていかれた。最初は他のスマートフォンゲームのようにライトに遊んで満足して他のゲームに移る予定が、今やゲームランキング一桁の超有名ゲームプレイヤーとして毎日のようにこのゲームをプレイしている始末である。
その面白さにのめり込みゲームランクに名前がNAIBと乗るようになってから、ナワーブのゲームプレイが時折有名なゲーム解説動画に映るようになる。すると、NAIBのゲームの内容をシェアしてくれと訴える大勢のファンが付き、あれよこれよという間にこれまた動画配信サイトYouBubeでゲーム配信を行う「ティティ5」の有名ゲーム配信ランカー「NAIB」として認識される事になっていた。いつしか朝、昼、晩、一日中配信しながらのレート制のゲーム、ランクマッチに勤しみ、合間に在宅の仕事を行う様になった。
ゲームを遊ぶ相方のウィリアムもゲーム内でそこそこ有名な古参のランカーであり、このナワーブの毎日の日課に付き合ってくれている。
そして、ナワーブをゲーム配信有名ランカーに押し上げた原因のゲーマーがjAckと名乗るこれまたYouBubeの超有名ゲーム配信者である。「ティティ5」が有名になる前から、この男はプロ並のオンライン対人ゲームの腕前とイケボと言われる持ち味の低音の通る声や落ち着いた語り口で好まれ、チャンネル登録者数は6桁に及んでいた。勿論「ティティ5」での腕前も他を寄せ付けない程圧倒的で、どのシーズンでもランキング一桁、いや5本の指には入る力を持ち、上位帯にて猛威を奮っていた。
「ティティ5」においてゲームランカー最上位と呼ばれる、ランキング一桁同士のランクマッチでは、基本的にほとんど同じ面子で戦う事になる。現サバイバーランク3位のナワーブ、そして5位のウィリアムが組むと当然その敵陣営となるハンターのランクは一桁の者としかマッチングはしない。
つまり、現ハンターランク1位のjAckと当たるのは殆どこの一桁ランカーの者だけであり、逆も同様なのだ。毎朝、毎晩、毎日、飽きる程同じ面子でゲームを回してお互いの手持ちポイントを奪い合う。いつしか互いの手の内など丸見えになり、癖や戦い方、性格全て把握し合った上で、お互いの手の平の上で踊るように競い合うのだ。
当然それを観戦する大勢のゲームファンも同様にいつしか、ランカーの面子を認知し、固定ファンがつく。様々な性格の尖ったゲーマーが乱立する中で、性格の不一致から犬猿の仲で有名なjAckとNAIBは界隈を騒がせることが多々あり、最近ではその喧嘩を「お決まり」のように皆楽しんで眺めているのだ。
ぐるる、とナワーブが唸りながらマッチング画面を睨みつけると、今日も画面端にはjAckお得意の持ちキャラである金色のレア衣装で着飾ったリッパーと呼ばれる長身の怪物が訪問して一礼して去っていく。
「何がGGでした、だ。勝ったのはこっちだからな!おい、ウィル、ちゃんとオフェンスにしろよ。次は四逃げかましてやっから!」
傭兵のキャラクターのスキルを確認して、先程の遊びで使っていた幼い少年の衣装「スプリング」から「蒸気少年」と呼ばれるこちらもレア衣装に変更して敵に対して挑発モーションをした。
ウィリアムは苦笑して、その子供のように喧嘩を振りまくナワーブの様をこれまたランカーのマッチングした普段のメンバーに代わりに謝って、試合開始となるのだった。
日曜の午後。
項垂れる。
頭に血が上ったまま、その後冷静さを欠き読み合いに尽く負けた。
いやjAckの今日の読みが冴え渡り、圧倒されてしまった。
そして、連敗した。
組んだ仲間は原因を知っているため、励ましの言葉を送ってくれていたが、頭が冷えてから考え直すと、余りにメンタル面が相手に劣っていたとも言える。
最後はjAck直々にイイネ煽りで追い打ちを受け、マッチ時間が終わると同時にゲームを放置し、配信画面を落としベッドにひっくり返り呆然としていた。
「……強く、なりてぇ……」
あの男だ。
jAckと呼ばれるあのゲーマーにどうしても勝てない。
SNS越しに沢山の心配のメッセージが届いているが、反応できる状態ではなかった。
順位を落としてしまったのだ。
ここまで必死に積み上げた1週間分のポイントを全部jAckに奪われた。優しいウィリアムも巻き込んでしまった。それを配信で世界中に発信してしまった。
自分への情けなさでじわり、と視界が歪む。
「もう、このクソゲー、やりたくねぇ……」
布団をかぶって現実逃避をする。
頭の中を過ぎっていく幾つもの今日の失態。負けを繰り返しても、次は勝てる、次は勝てると悪い流れが来ていたのに諦める事が出来なかった。
天井を呆然と見上げる。
「腹、減った……」
緑縁の眼鏡を外し、目を休めながらキッチンへ向かおうとゆっくりと起き上がろうとした時。
スマートフォンが揺れる。いや、ここ最近はこのバイブ音は日常的だったが。
今もずっとファンからの励ましの言葉が届き、アラームが鳴り止まなかった中での虫の知らせか、ふと目をやってしまったのは、偶然だった。
『NAIB君、良ければ二人だけで1on1しませんか?』
一瞬だけプッシュ通知で見えた文字と、その名前に心がざわつく。
珍しい。元々あの男は他の人間と遊びでサシで戦うようなタイプの配信者ではなかった。しかも、それを一対一で戦って欲しいとサバイバー1位でもない自分の元に連絡が来るのは…?明日は雨でも降るのだろうか?
ゲームの腕を上げる為には強い敵と戦う必要がある。
正直に言ってjAckはナワーブの考える現存するハンターにおいて一番強い相手であったから、非常に嬉しくはある。しかし何故あのような失態を見せつけられた後にわざわざ誘うのか、わからない。
と、すぐさま、相手も配信者であったことを思い出す。
(ハ!どうせ、ボコボコにしてまたオレを嘲笑うネタに使うんだろ)
落胆してしまう。
通知をoffに切り替えて、キッチンに向かった。
冷凍庫に突っ込んだ残ったチャーハンを解凍し、丼に乗せて自室に戻る。しばらく放置されたスマートフォンの画面を覗き込むと、3回ほどゲーム招待を受けたメッセージが残っていた。
「……馬鹿か、行かねえよ」
もう、今日は傷心なのだ。夜に備えてメンタルを回復させなければならない。何が面白くて自分のストレスの原因と絡まねばならないのだ。
チャーハンを薄暗いPCデスクに置いてWebブラウザを立ちあげる。つかの間の休息時間に心を休めようと何か癒されるような動画を探す。
ハムスターが回し車を回している動画。
犬が赤ちゃんと戯れている動画。
簡単にカルボナーラを作れる料理動画。
無関係なFPSやホラーゲームの実況動画。
目を細めてそれらをのんびり堪能しているうちに丼の冷凍チャーハンを平らげていた。
作り置きした麦茶で流し込むと、その下に現れたおすすめ動画一覧を眺める。勿論ティティ5配信者の自分へのおすすめといえばその関連動画となる。初心者向けから上級者向けまで様々な解説動画やプレイ動画が並んでおり、どれも過激な煽り文句で人を誘い込むようなタイトルになっていた。その中に
『現環境最強?!話題の傭兵を簡単に救助狩りする方法、教えます』
サムネイルには自分の使用しているアイコンと自分の名前が大きく書かれ、それを煽る構図で鎮座するゲームキャラクターのイラストがあった。
その動画の投稿者はやはり見たくなかった名前であり、つい先程投稿されたばかりというのに既に1万再生を突破しており…大きく目立つような説明文の煽りは自分の視聴を誘導していた。
「はぁ…」
どうせまた自分のプレイミスが取り上げられ煽られているのだろう。いつもそうだ。
jAckの動画投稿は如何に自分のプレイが素晴らしいかを誇示するためであり、他者のミスは指摘して時には対戦後チャットの悪い空気を眺めてやんややんやと笑っているのである。
普段であれば視聴もせず勢いのままコメントへ殴り込みに行っているのだが、今日はそのような気力も湧いてこなかった。
明らかに調子が悪かったのだ。判断は冴えていたが、普段通りの動きが出来なかった。
カルボナーラのレシピ動画に戻ろうか、カーソルをウロウロさせ、そして、無気力のままその動画をクリックした。
「ここの肘当ての使い方、非常にお上手ですね。最大距離まで伸ばしていますし、ギリギリまで温存している。そうですね。ここで温存されたが故、通電後に彼の肘当てが3個も残されたのが今回の痛手となります。」
「はい、こちらご覧下さい。私がキャンプして監視している方向が先程目視で確認していた傭兵の方向なのですが、ここ、見えますか?足跡を消して裏側に回り込んでいるんですね。これには気付きません。」
「私が思う現環境で真に傭兵を使いこなせているのは彼くらいだと思いますよ。キャラクター自体は使いやすいですが真価を発揮させるためには経験と鍛錬を積み上げ、シビアな判断力が必要になりますからね。」
な
なんだこれは。
心臓がバクバク言っている。
顔が少し火照っているのではないか。
解説動画が次々と流れていくが、未だ理解出来ていないまま何故かいつも貶されている自分が褒めちぎられている。
そわそわとした気持ちになり、じっとしていられず、先程までの陰鬱とした気分がいつの間にかどこかへ飛んでいってしまったようだ。
「今度彼を大会に誘おうと思ってはいるんですが、まあ皆さんご存知の通り彼とは所謂犬猿の仲ですからね。…まあ最大限のアピールで何とか彼を射止めたいとは思ってます。駄目元で、当たって砕けるので、いい返事は余り期待しないで下さいね、皆さん。」
普段の態度と正反対の動画。なんだこれは。
今までの嫌味の押収が全てひっくり返ったような非現実な褒め言葉の応酬に麦茶のグラスを持ったまま固まってしまった。
通知が鳴り止まない。
あのクズ野郎が余計な事を言ったからだ。ゲームを通しての交流のため年齢は知らないが、そろそろあの男は自分の発言力の強さを自覚した方がいい。
せめて、あのような発言をするなら裏できちんとこちらに連絡を取ってからにして欲しい。
とはいえ、あの男との連絡手段は全てカットアウトしているのだが。
SNSもブロックしているし、メールもブラックリストに加えている、ゲーム内のみフレンド登録をしている。とはいえ、それは友好の証ではなく、「今相手がログインしているか」「今の時間にランクマッチで当たるか」を確認する為だけである。
何も連絡がない。迷惑だ。当然相手に連絡手段なぞないものだから動画であれだけアピールされても連絡が来るはずなどない。
そもそもあの男自体が普段の発言が過激であり、事が大事になってから後からフォローを入れるタイプなのだ。些細な話も炎上させてしまう力を持っている。
「関わりたくない…」
本音はそうだが、目をつけられた以上そんな悠長な事も言ってられない。即座に連絡を取り、断りを入れなければ。
と、
プルルルルル
スマホの電話が鳴り出した。
見覚えのない、登録のない電話相手。
いや、今までの流れで相手はもう分かる。
取りたくない。見知らぬ電話番号だったのでスルーしました、で終わらせたい。
(そもそも俺の電話番号あの男に流したヤツ誰だよ??!!信じらんねえ!!!)
通話待ちのスマホの画面を見つめ続け止むのをひたすら待つ。
留守電に切り替わる。
「さっさと出て下さい、ナワーブ君」
聞き覚えのある、先程まで動画で聞こえていた声が電話口から流れてくる。
「今さっきログインしてるのは確認してるんですよ、暇なんでしょう?」
この男に番号流した奴は一体誰だ、絶対ブロックしてやる。
「あ、もしかして動画見ました?勝手に、…本当に申し訳ありません。」
申し訳ないと思っている声ではない。明らかに状況を楽しんでいる男の声だ。これで成人済の社会人とは世も末である。
「ちなみに電話に出てくれたら貴方の番号横流しした人間の名前教えますよ」
「早く名前を言え」
反射的に、思わず出てしまった。
「ナワーブ君!やっぱりナワーブ君の電話番号で合ってましたね、良かった…」
「何も良くねえよ、今昼ランお前にボコボコにされて萎えてんだよ!何なんだよ!」
「ねえ、私のSNSブロック解除して下さいよこれでは話も出来ないので」
「……また晒すのか…」
「晒しません、どれだけ晒されるの恐れてるんですか」
「お前いつも俺のチェイス晒して笑ってるじゃねーか!!」
ダメだダメだ。そもそもこの男と会話する事自体が間違っている。何も生産性がないし、そもそも、会話してしまえば、あちらのペースに持ち込まれるのは必然で。
「あれは違います!私の強さを誇示するためです。あの…では晒しませんから話だけでも聞いてください。」
「ヤダ」
このタイミングで電話を切ろう。そうしよう。
またろくでもない噂になってしまったら自分の今後の人生にも関わる。
「待ちなさい!今度の大会ですが、どうしても決勝まで持ち込みたいんです。正直出るのは決勝大会だけでもいいので、どうか私と一緒のチームになって貰えませんか」
「本音は?」
「本音なんてナワーブ君が強いからに決まってるじゃないですか、ぜひお願いします」
「じゃあ切るわ」
「……ナワーブ君の、顔が比較的整ってるので」
「てめぇ最悪だな???!!てかなんで俺の顔知ってんだ!!」
相当クズだとは思ってたが顔で人を判断する事を堂々と口に出来るその神経は何処から来ているんだ??!!
「あーもーー黙って下さい、良いですか、優勝すれば大金が手に入るんです。そして動画の宣伝にもなる。いいですか、貴方の視聴者数いえチャンネル登録者数を増やすチャンスでもあるんですよ。WIN-WIN!」
「なんでこの世にてめぇが生まれたのか考え直すことを勧める」
「本当に一緒に出たいのは嘘ではないんですよ」
「人望ねえからな」
「そうですよ、人望ないんですよ!コラボ企画が舞い込むわりにプレイと口のせいですぐにポシャってしまうのが私です。ナワーブ君1on1貴方の好きなだけ付き合いますから是非」
…………。
「………言ったな?」
「勿論!愛するナワーブ君の強さのためなら私の私的な時間の一つや二つ…」
「うるせぇまた動画のネタにするんだろ」
「はい」
頭が痛い。
勿論この男をこき使って練習に付き合わせまくれば確実に自分は強くなれる。そうすればいつも負担をかけているウィルへの負担を減らす事も、そもそもこのハンター一位のこの男の手の内を更に知る事も出来る。
しかし、大会…同じチーム……またjAckの信者(視聴者)共の玩具にされる……。
しばし頭を抱えていると、ため息と共にまあ決まったら返信下さいあとブロックは解除しておくように、と口早に投げられてから、もう用は済んだという雰囲気で一方的に会話を切られ、また静かな時間が訪れた。
「嫌いだ」
心から。あの無神経で自分が一番大事で自己顕示欲の塊のようなあの男が。
そもそも自分は組んでいるウィリアム以外のゲーム仲間と一対一で通話さえもした事がないのだ。それを勝手にズカズカ入り込んでくる無神経さは何処から生まれてこれるのだ?
だが……、腕は確かなあのjAckから理由はどうあれ「腕が認められた」と思うと胸にじわりと熱い何かが流れてきて、つい気分が良くなってしまうのだ。散々今まで吐く程に辛酸を舐めさせられたというのに。
そう、ただ、それだけだ。
その一週間後、ナワーブはその話を聞いて爆笑したウィリアムと共にjAckの組むチームメンバーに入っていた。
そして、早速また視聴者の玩具にされてしまっているのはまた別の話。